【ライブレポ】ライブバンドという証明:2017.10.21 My Hair is Bad @ ZeppTokyo

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『My Hair is Badというバンドはドラマチックなバンドだ』と誰かが記したのを覚えている。ライブバンドとしての幾多の経験を糧にここまで登り詰めたと言ってふさわしいこのZepp東名阪のウルトラホームランツアーも10月21日のTokyoファイナルを迎えた。
 
2000人を超える観客を対峙した時でさえも、あっさりとその期待を裏切っていく。確かにドラマチックといえば、その裏切りを大いに形容してくれる言葉だが、無論それだけでは済まされない何かが彼らの中にあるような気がしてならない。
 
例えば一つの映画としてなぞらえた時、脚本兼主演男優は、椎木知仁である。バンドである以上ヴォーカリストだけを主演と役づけるのは、少し強引だが、曲のほぼ全てを椎木が作詞作曲をしてる点を重視してみた。もちろんリズム隊のベース山本大樹、ドラム山田淳もいてこそ成り立つわけであるから彼らも立派な助演男優だ。
 
ただここに主演女優はいない。いないというと適切ではないのかもしれない。曲の中に存在するからだ。My Hair is Bad真骨頂と言ってもいい、歌詞の中にあるラブストーリー。それは儚くもバッドエンドを迎えるケースが往々にしてあり、その中に彩る数々の女優に対する想い、考え、心の叫びを綴るひとつひとつの言葉に、胸を打たれ、儚さを感じ、心を奪われる。
 
なんで映画に例えたかと言えば、それは演じるというものこそが答えである。ミュージシャンとしての成功は音源が売れる事。それがひとつの指標として確立されてる事は周知の通り。ただ彼らに言わせれば、それと同じくらい、いやそれ以上に大事なものは演じる事=ライブなのであると彼らの姿を見ていつも確信する。もちろん音源に対して軽視してるといわけでない。ただ、ライブバンドとしてこのキャリアをスタートさせた新潟県上越市にある上越EARTH(キャパ150名)から9年の歳月と共に紆余曲折を経て、この日演じたZeppTokyo(キャパ2709名)までたどり着いたこの事実こそがそれを物語っているのではないだろうか。
 
過去のライブにも参加してきた筆者として今回のツアーで感じた事は男性の観客が増えた事。椎木もMCで『男性の人が増えた気がします。それって共感してくれたって人が増えたって事ですよね?』とちょっと照れ臭そうに話し、またこの日も披露してくれた“元彼氏として”の一節にも触れ『想ってるよ、見てるよ、ずっと見てるよ。って思っちゃってるわけですよね?そんな男ばかりだったら気持ち悪いけど』と言いつつ嬉しそうに話してた表情が印象的だった。
 
終盤にさしかかり、即興の語りからはじまるライブの定番フロムナウオンでは、繋がりという言葉が印象的に感じた。椎木自身もMCで口にしていたがバンドだけでライブをしていた時代から所属会社ができ、スタッフが多く携わるようになり、それと比例するように観客が増えMy Hair is Badというバントを軸に繋がりが生まれた事。この日のライブは紛れもなくそれを証明する1日であった。
 
11月22日に発売になるNEWアルバムからも先行シングルになった“運命”“幻”の他に“いつか結婚しても”というタイトルの新曲を披露してくれた。この新曲もまた、椎木が綴る歌詞ではあるのだが、過去の作品とは一線を画すハッピーエンドな楽曲である。どことなくキャッチーなメロディにサビの覚えやすいフレーズが、確かに椎木の綴るいつもの言葉なのだが、世間にマッチするのではないかと錯覚させるようにタイアップにでも使われそうな一曲でもあった。
 
本編を終えて、アンコールで出てきた時の彼らの表情は晴ればれとしていた。記憶は曖昧だか、彼らのライブはアンコールのMCの方が比較的トークが軽快な気がする。それを表すかのように椎木が『アンコールはサービス残業だから』とつぶやいて“ドラマみたいだ”と『騙されていたいのさ』というフレーズからはじまる“優しさの行方”の2曲を披露し完全にやりきった表情で彼らは袖にはけていった。
 
明転し、BGMが流れ、スタッフがマイクを回収をし、多くの観客がはけたスタンディングエリアでは思い思いに記念撮影をし余韻に浸ってた観客にまさかのサプライズ。なんとダブルアンコールで3人が登場し、ショートチューンの“エゴイスト”“クリサンセマム”を演奏と地声で披露し、ものの数分で嵐のように去っていった。こういう事を平気でやるあたりが、やはりドラマチックなバンドなんだろう。これからどのステージにいくのかは彼らが選ぶ事である。ただいつまでも彼らはきっとそこにいてくれるはずである。ライブハウスという場所を。
 
セットリスト
1.アフターアワー
2.グッバイマイマリー
3.革命はいつも
4.マイハッピーウェディング
5.真赤
6.接吻とフレンド
7.運命
8.悪い癖
9.彼氏として
10.告白
11.クリサンセマム
12.元彼氏として
13.ディアウェンディ
14.ワーカーインザダークネス
15.フロムナウオン
16.幻
17.戦争を知らない大人たち
18.ふたり
19.いつか結婚しても
20.音楽家になりたくて
アンコール
1.ドラマみたいだ
2.優しさの行方
ダブルアンコール
1.エゴイスト
2.クリサンセマム
 
P.S
奇しくも10年前の10月、筆者はこのZeppTokyoで活動休止をしたELLEGARDENのライブを見ていた。あのバンドの活動休止と機を同じくして自分の環境が少しづつ変化し、ライブハウスから足が遠のいていった。かたや、そのELLEGARDENに憧れるようにバンドマンになった椎木をはじめとしたMy Hair is Bad。彼らを知ったきっかけで、またライブハウスに戻れて、あの日から10年後に同じステージでここまで辿り着いた彼らを見れた事に本当に嬉しく思う。偶然にしては出来過ぎたストーリーだった。

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